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目的:
 
ノロウイルスはヒトでは小児の感染性胃腸炎や冬季に多い食中毒の主要な
原因因子として知られている。特に近年は生カキ等の海産物の生食により、
大規模な食中毒の発生が報告され、高齢者を中心に死亡例も報告されてい
ることから、ノロウイルスによる食中毒の予防法を早急に確立する事が求め
られている。その方法として、経口的に摂取しても安全で、食品の生の風味
を損なわない消毒法の開発が期待されている。しかし、ヒトのノロウイルスは、
培養可能な適当な培養細胞が知られては無く、又、実験動物では培養できな
いことから、ヒトのノロウイルスに対して消毒剤がどの程度有効であるかといっ
た不活化(死滅)の条件はほとんど調べられていない。ネコカリシウイルスはヒ
トのノロウイルスと同属で、ネコ腎臓細胞であるCRFK細胞で増殖することが知
られ、ヒトのノロウイルスの代替実験系として用いることが出来、プラック感染
価測定が可能である。
 今回は、ノロウイルスに類似したネコカリシウイルスを用いて塩素系消毒剤
(次亜塩素酸水溶液)による不活化(安定性)を検討した。
 
材料と方法
 
ウイルス:ネコカリシウイルス
細胞:ネコ腎臓細胞由来CRFK細胞
使用した消毒薬:次亜塩素酸水溶液
ネコカリシウイルス感染価の測定:培養CRFK細胞を用いたプラック感染価
  測定法を行った。
消毒剤(次亜塩素酸水溶液)の不活化効果の検定
@ネコカリシウイルスを100ppmの次亜塩素酸水溶液存在下で1〜10分間処理
  した。
A10%(W/V)チオ硫酸ナトリウムを加え次亜塩素酸水溶液を中和後、PBSで10
  倍階段希釈し、その適当な希釈液0.1mlずつをそれぞれ4ウエルの培養CRFK
  に加え、37℃、60分間吸着させた。
B吸着後、CRFK細胞に0.8%寒天を含む培養液を加え72時間培養した。
C培養後にメタノールで固定し、0.1%クリスタルパイオレットを含む20%エタ
  ノール液を加えて生細胞を染色後、プラック(死んだ細胞)数を算定し感染価
  を算出した。
 
結果
 
この、次亜塩素酸水溶液のネコカリシウイルスに対する不活化効果の測定の
実験は再現性のある事を確認した。成績はそのうちの代表的なものである。
 
考察
 
現在、ヒトノロウイルスの有効な培養・測定系が知られていない。その為に近年
増加しているノロウイルスが原因と考えられている急性胃腸炎に対し、その予
防法を検討する手段がなかった。しかし、ネコカリシウイルスはノロウイルスに
類似したウイルスで、ネコ腎臓由来のCRFK細砲で培養が可能である事から、
ヒトノロウイルスの代替実験系として用いることが可能である。
 今回、ヒトのノロウイルスに対する次亜塩素酸系消毒薬・次亜塩素酸水溶液
の消毒効果を、類似ウイルスであるネコカリシウイルスを用いて調べた。ウイ
ルスを処理するために用いた濃度は、予備実験の結果から最終濃度100ppm
とし、ウイルスとの接触時間を1から10分間とした。その結果、ネコカリシウイル
ス感受性CRFK細胞でのプラック形成能でウイルスの活性を見ると、作用時間
の長さに比例して形成されるプラックの数は急激に減少し、1分間の接触で約1/700になり、3分間では約1/7000になった。10分間の接触では10万分の1以下
に減少したが、この作用時間内では完全なウイルスの不活性化は観察されな
かった。
 これらの結果は、ネコカリシウイルスを用いた系で得られたものであるが、次
亜塩素酸水溶液が効率よくヒトノロウイルスを不活性化しうることを示しており、
近年急増しているノロウイルスによる食中毒を、食品に直接使用しうる消毒薬
として認可されている次亜塩素酸消毒薬による予防できる可能性を示し、食品
衛生上の観点からも重要な結果といえる。今後更に、ノロウイルスによる食中
毒を予防するための消毒着の使用条件を詳細に検討する必要がある。